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長い年月ウミガメに関わってきた知見を活かして、リニューアルするカレッタの原動力を生み出す平手館長

平手 康市

1962年愛知生まれ。近畿大学農学部水産学科を卒業後、財団法人海中公園センター八重山海中公園研究所や沖縄県水産技師を経て2023年より日和佐うみがめ博物館館長に就任。

愛知県清須市出身の平手康市さん(60)。大阪の大学を卒業し、沖縄県職員を経て美波町へカレッタ館長として2023年の4月から赴任されました。

大学時代は、大阪近畿大学水産学科に属しており、水辺の生物には以前から興味があったそうです。学生時代、沖縄県竹富町黒島の海中公園センターにウミガメの調査やお世話のお手伝いをする為に訪れ、そこからウミガメとの繋がりが始まったとのこと。竹富町での体験で沖縄の風土を好きになったのをキッカケに沖縄県の水産技術系職員の経験を経て、現在カレッタの館長になられたようです。当時竹富町では、のちに初代日本ウミガメ協議会会長となる亀崎直樹さんとも出会い、非常に貴重な機会でしたと話す平手さん。そんな平手さんがこの度カレッタの新しい館長として赴任されたという事で様々なお話を聞いてきました。

沖縄の生活で得たウミガメに関する知識を活かして、美波町でリニューアルするうみがめ博物館カレッタ館長へ。

大学を卒業してから沖縄県の県職員になった平手さんは、水産技術系の職員という事もあり、普段からウミガメと触れ合う事ができたそうです。県職員時代は、定置網にかかるウミガメのサイズをひたすら測るという作業を行っていたそうで、計測をしてしばらくすると、時期によってウミガメのサイズが違うという結果に気づいたとか。更に情報を集めてみると「渡鳥のような行動をするんじゃないか」と言う考えが生まれたそうです。

暖かい時期には小さいウミガメも沢山いるが、寒くなってくると水温に耐えられなくなるウミガメも出てくるらしく、そうなってくると徐々に暖かい海へ流れていくのではないか、という結論が出てきたそうです。これまでは浜に上がってきたウミガメからデータを取っていたそうですが、海中を泳いでいるウミガメのデータというのはあまりなかったらしく、平手さんが最初に始めた調査のやり方だそうです。そして、ある程度データが集まってくると、次は琉球大学で社会人学生として、ウミガメに関する論文も書かれたそうです。その後、30年近く沖縄で生活した後に、定年退職をされたタイミングをキッカケに美波町のカレッタ館長募集に応募。採用をキッカケに美波町へ移住。現在は、うみがめ博物館カレッタのリニューアルに関しての準備や、様々な方との打ち合わせを行っているようです。

ウミガメの事を考えながらリニューアルに向けての準備をしなければいけない。やらなければならないことは山積み。

現在、改装準備中のカレッタ。中を案内してもらいながら話を聞いていると、まず裏にある小屋へ案内してくれました。

この小屋は、リニューアル時に撤去対象となるようですが、中には臨時の水槽があり、ウミガメ達を移動させる際の一次避難や、ウミガメの観察や点検を行う際に使うそうです。カレッタリニューアル時に新しく作り出されるものもあれば、撤去されるものあり、工事している最中ウミガメ達を水槽から逃す場所を探すのが大変とのことでした。ある程度、頭数を確保しておきたいので、施設内で飼育しているウミガメ達とは別に、他の飼育場所も必要なのだそうです。他の水族館に頼んで、一時的に保護してもらうという話も出ているようですが、そうなってくるとお世話をしに何度も往復しなければならないし、ウミガメは結構お世話が大変らしく、さらに、水槽を痛めることも多いとのことで気軽に別の場所にお願いするのは難しいとのことでした。

「預ける方も預かる方も気を遣う。適切に健全に飼育できないのであれば海に返すという選択肢もある。」ということでした。現在、この件は協議中らしく、ウミガメのことを考える故に、何が最善なのかを話し合うにも沢山の時間が必要そうでした。

これまでと違う展示内容。たくさんの情報を分かりやくす噛み砕いて、目で見て感じて学ぶ空間にしたい。

「展示に関しては、空間全体を使ったものにできればなと思っています。
これまではパネルにただ情報を載せていただけだったのに対し、プラスアルファの空間づくりを目指しています。室内全体を通して、見て歩いて感じて知る。そんな空間にしたい。
例えば、水槽を設置して、本物のウミガメを観察しながらパネルを読むことができれば、より正確に、よりリアルにウミガメの生態についての理解を深めることができるのではないか。というように、床から天井までを使った大胆で動きのある展示方法について、皆で意見を出し合い、斬新でユニークなアイデアがいくつも出てきています。

今回のリニューアルでは、来館されるお客さんの目に見えないところにも、大勢の人が関わっているのです。
こうして生まれ変わるカレッタを通して、一人でも多くの人にこれまでのウミガメの歴史を知ってもらえたらなと思います。現在、カレッタで飼育しているウミガメの浜太郎は、正確な年齢ばかりか、その産まれた日までもが記録として残っています。世界的に見ても非常に貴重で、記録史上、最高齢の個体と言われています。

この事実からも、美波町がどれほど先進的な取り組みを行ってきたかがうかがい知れます。
そして、いま現在もその取り組みがこうして続いているという歴史の深さも、同時に伝えることができればなと考えています。」ウミガメに長年接してきたからこそ、今ある情報の重みを理解し、後世に伝えるためにはどうしたらいいか、必死に考える姿がそこにはありました。

ウミガメと人の生活の距離が近い美波町。そんな中でカレッタの存在意味をこれまで以上に生み出す為に。

カレッタがあるこの美波町は、ウミガメにとっても人にとっても聖地のような場所だなと思ってます。ウミガメの産卵地が、こんなにも人の生活の近くにあるなんて事は他の場所じゃあとても珍しい事です。他の場所で歩いてウミガメの産地に行ける場所はそうないですよ。他で産卵地に行こうとすると、だいたい有名なツアーとかで車で行かないといけない場所にあるので、美波町はその分、昔からウミガメと人との関わりが深いって事だと思います。ほら、町中にウミガメの彫刻もあれば壁にウミガメを象ったモニュメントもある。道を歩けばウミガメのシルエットをしたタイルがあったり、ウミガメがそこら中に散らばっている。町の人は気づいていないかもしれませんが、それほどウミガメと人との関係が深いって事だと思います。上陸数は減っているかもしれませんが、人とウミガメとがうまく共存していくようにカレッタの存在意義を見出していければいいなと思ってます。

カレッタのリニューアルに関しては、すごく貴重なタイミングなのでやりがいもあるし責任も感じます。このタイミングで僕が来ても大丈夫だったのかなと不安な部分もありますけど、リニューアルすることでこれまで展示されていた情報がグレードアップするし、世界的にみてもすごく貴重な深い歴史なので、これまでの歴史を、町との関わりを、知ってもらえたらなと思います。そして、この地にはウミガメと人との歴史が昔からあるんだなと改めて考え直してもらえたら嬉しいですね。」
と、数年後の共存しているウミガメと人を見据えているように話す平手館長でした。

 

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