魅力ある建物を町の人たちと一緒になって作り上げる。カレッタがこの地にある意味をより広める為に。
カレッタのリニューアルの意味を考え、様々な情報の狭間で最善の方法を見つける曽根 馨さん
大阪府で乃村工藝社に勤められている曽根馨さん(57)。小さな個人事務所から工務店を経て現在の職場に巡りあい、今年で30年目になるそうです。主に博物館等の展示空間や人の集まる施設、博覧会等のイベント空間、商業空間等の企画・デザインや施工を手がけているようです。最近では、主に公共事業を担当され、自然系の博物館や植物園などに携わることが多いそうです。その中でも、特に多いのが水族館なんだとか。以前インタビューさせていただいた、四国水族館館長の松沢さんとも一緒にお仕事をされた事があるようで、松沢さんからのご紹介もあり、今回のカレッタリニューアルにも関わりを持つようになったそうです。

ほっとする場所、美波町の魅力を感じる。カレッタがここに存在し続けている意味を考える
まず、初めて美波町を訪れた時の感想を聞いてみると、
「来た事はないけれど、どこか懐かしさを感じるようなホッとする場所でした。純粋にいい場所だなと感じました。そして町の人たちが穏やかに感じました。通り過ぎる町の人たちを見てもみんなニコニコ明るい感じがするし、町全体でウミガメを大切にして様々な取り組みを行っているように感じます。それも、このロケーションがすごく影響しているのではないかなと思います。ウミガメに特化した研究成果や当時の中学生らが行ったウミガメ保護の話を聞くと歴史的にも深い場所だし、いろんな話を聞けば聞くほどすごく特殊だなと感じました。さらに、カレッタという場所は目の前に大浜海岸が広がる景色があるのですごく馴染みやすいし、人にとってもウミガメにとっても心地よい場所だなと思います。他の地方にはなかなかない環境なんじゃないかな。建物に関しても歴史の中に成り立ってきて、37年経過した今でも未だに同じ建物を使い続けているじゃないですか。今回だって新しく建て直すのではなくリニューアルする訳だし。これもウミガメが帰ってくる環境を変えないように、役場の方や町の人が色々と考えて意見を出し合った答えだと思うんですよね。リニューアルで良かったのではないかなと感じています。」
一から新しいものを建て直すのではなく、建物自体が見続けてきたものを大切にし、守り続ける。そしてウミガメを好きな人たちがこの環境を守り続ける。カレッタには目に見えない大切な存在意義が存在しているのだなと、美波町とカレッタの関係の重要性を伝えてくれました。
ウミガメ達の魅力を伝えるために生まれてくる熱量を町全体から感じ取ることができる。自分達にできることを最大限考える。
展示に関しては、関わっている人の思いがたくさん詰まっていて、博物館としての専門的な部分はしっかりと情報として展示はしたいが、来館者が面白いと感じる部分は分かりやすく丁寧に説明する必要があり、展示のストーリーを含めてうまく落とし所を見つけなければならない。と話す曽根さん。最初の設計やデザインの部分で、かなり頭を悩ませたそうです。ウミガメの研究を行っている研究者が面白いと思う部分と、カレッタに来られた人たちが面白いと思う部分が違うと感じているようで、正しく情報をすり合わせながらなるべく多くの人にウミガメの魅力を伝えられるように、情報を整理しているそう。月一回の定例会で共有できなかった部分は、個別に話し合いを行い作業を進めているそうです。
曽根さんは、会議を重ねていくうちに美波町の役場の方や、カレッタの従業員の方たちの熱量や、本当にカレッタを良くしよう!美波町を盛り上げよう!という、真剣な気持ちが伝わってくると言います。ただ、コロナ禍の影響で現地を訪れる回数が減ってしまい、人と直接会って、その場で紙とペンを動かしながら顔を見て話すという機会が減ったので、微妙なニュアンスのやり取りが大変だったと話します。見えないところで、コロナの影響はこんな場所にもあったのだなと感じさせられました。今では、web会議等にも慣れてきて現地にも行くことができるようになったので、以前に比べては楽になったと言いますが、改めて面と向かって話し合う大切さを感じたそうです。

情報に包まれる空間の提供。リニューアルを面白いと感じてもらえるように
展示において工夫している箇所を聞いてみると、空間が主役になるのではなく、あくまで主役はウミガメとその展示資料。そこを邪魔しないようにしたと言います。だけどせっかくリニューアルするなら、来てくれた人に「変わったね」と感じて欲しいので、まず入り口を入って最初の部屋に、ウミガメ進化の系統樹(情報)を用いた展示を行う予定になっているそうです。床から壁、天井までの全面を使って、ウミガメの情報で包み込まれるように来館者を迎え入れる空間になっており、これまでのウミガメの進化を順を追って辿っていき、その形跡が見られるように工夫されているそうです。
曽根さん曰く「普段見ることのないウミガメ達の情報でラッピングされたような新しい空間」になっているそうで、話を聞いているだけでもワクワクする空間だなと感じました。

また、他にも展示でこだわっている部分があるようです。これまではデジタル系の展示がなかったので、新しく増設する予定だそうですが、その内容は、自分の描いたウミガメの絵が大きな海を回遊して、生まれた場所に帰ってくるまでを疑似体験でき、ウミガメの気持ちを感じながら学べるというものなんだとか。しかし、ウミガメの生存率は高くはないので、自分の描いたウミガメが、もしかしたら帰ってくることができないかもしれない展開も。そこには、リアルなウミガメの生態を知ってもらいたいという曽根さん達の強い想いが詰め込まれています。
展示内容を検討する中で、デジタルよりももっとリアルな、実在するものを使った展示が必要なのではないかという案も出てきたそうですが、目の前に大浜海岸という圧倒的な大自然があるので、その環境下でいくら擬似体験ができるようなものを施設内に作っても目の前にある大自然は越えられないということなので、今の世代の人たちにも受け入れられやすいデジタルの展示もいいんじゃないかということから現在のアイディアが採用されたようです。中身としてはその体験をするとウミガメの一生を感じられ、より、興味をもった人がたくさんカレッタに通ってウミガメに関する新たな情報を増やしていける内容になっているのだとか。これも前回松沢さんの話されていた「回遊する」というキーワードが盛り込まれているのかもしれませんね。
カレッタの歴史の中でも、当時の中学生らが行ったウミガメ保護活動はこの施設の根底をなす部分であり、特に丁寧に伝えなければなりません。展示をより視覚的効果の高いものにしなければならないという課題もあるそうです。今ある限られた環境の中でどこまでできるか?という改築ならではの悩みや、完成前の試行錯誤の様子が窺えました。
長い間関わるからこそ、再発見できる事がある。より良いカレッタに生まれ変わる為に

5年間という長いスパンでの施設リニューアルはごく稀なケースだそうです。
長期間という事もあり、当初はカレッタを開館したまま工事も進める予定でしたが、景観が損なわれることや工事車両の往来などによるお客さんやウミガメへの安全面を考慮した結果、工事期間中は休館すると決定されました。
その影響で全体的に予定の変更を余儀なくされる箇所も出てきたそうです。
工事が長期間にわたることで、新たに見直さなければならない部分が明らかになったり、じっくりと考える事ができる半面、時間と共に変化する物事に対応していくのは大変だと話す曽根さん。
例えば、最先端のデジタル展示を採用したとしても5年後にはもっと良い技術が開発されているかもしれない、デジタル技術はそれほどまでに日進月歩で発展しているのだそうです。
それに対する懸念について聞いたところ、
「不安はないですね。カレッタには最先端技術にも負けない明確な存在意義と歴史があります。そういった大切な部分をゆっくりと整理していき、しっかり伝えられるように準備しています。」
という心強い声が返ってきました。リニューアルということで建物内の施設については、今あるものをそのまま利用する箇所もあるそうです。例えば館内にある水槽。一見、新しく綺麗なものの方がウミガメも喜ぶのでないかと思いそうですが、曽根さん曰く今ある環境を急に変えてしまうとかえってウミガメ達のストレスになってしまうとのことでした。
「全てを新しくしようとすれば、結局それは全て壊して新しく建て直す方が早いという話になります。しかし、それよりも37年という歴史ある建物を守り続けていく事が大切だと思っています。リニューアルすると、残った古い部分と新しくなった部分に差が目立ってしまいます。そこをなんとかしようと町の人やカレッタのスタッフが資金を集めたり色んな補助金を探して来たりと一生懸命知恵を出し合っている姿を目にする事があります。そうすると僕たちもどうにか出来ないかと一生懸命考える。熱意が伝わってくると言うか。そうやってカレッタをより良くしていこうと沢山の人たちの気持ちが積み重なっていく。そうやって町の人やカレッタのファンの人たちに愛されて守られていくと思うんですよね。作って終わりじゃなく今後カレッタがどう言う存在であり続けるのか気になる部分ではありますね。必ず何回かは訪れることになると思います。」
沢山の人たちに見守られながらリニューアルしたカレッタを楽しみにしているようでした。
カレッタをキッカケに町一丸となって盛り上がって欲しい。また戻って来たいと思える場所になる為に

最後にリニューアルするカレッタに対する曽根さんの思いを聞いてみました。
「ウミガメの情報発信の拠点であり始まりの場所であるカレッタをもっとたくさんの人に知ってもらいたいですね。リニューアルをきっかけに美波町を訪れる人が増えることにも期待しています。地元の方々にはより一層愛着を持ってもらえるように。
世界で初めてウミガメの保護活動を始めたという歴史的背景や、大浜海岸の目の前という立地面を考えてもこんな理想的な環境で生のウミガメを見られる場所は稀なんじゃないかな?
そんなカレッタやその理念を、ウミガメ同様に美波町の人たちには守り続けていってほしいですね。」
沢山の人たちの思いが集まって続いてきたカレッタ。積み重ねてきた歴史にまた更に存在意義が増し、町一丸となって盛り上がっていくカレッタであって欲しいですね!