ウミガメの産卵を見守り続けた15年。大浜海岸と海の変化を感じて
より身近に感じているからこそ分かることがある。変わらぬ喜びを、多くの人々へ伝えたい。
約15年にわたり、美波町でウミガメ監視員として働かれている南 利明さん (79)。一等航海士の資格を持ち船乗りとしてのキャリアを経て、どのような経緯でウミガメ監視員の道を選んだのか。また長い間勤務していることで変化や気づきが色々とあるとのこと。普段触れることのできない角度からのお話をたくさん聞いてきました。
船乗りからウミガメ監視員へ—地元に寄り添う新たな仕事のかたち
昔は船乗りとして荷物の運搬などで全国様々な港へ船で訪れたことがある南さん。今と比べて漁師の数も多かった時代。当時から仲間や先輩に支えられ、大変だったけどやりがいのある仕事だったと当時を思い出しながらお話をしてくれました。若い頃から船乗りとして働いていた南さんが55歳になる頃、少し早く船乗りの仕事を辞めたと言います。定年後の数年間は仕事で疲れた体を休めるべく美波町でゆっくりとした時間を過ごされたそうです。そんな時間を過ごしていた頃、船乗りの先輩からの勧めで現在のウミガメ監視員の事を知ったと言います。ウミガメ監視員の作業は日が暮れてから翌朝の日の出までの夜間の仕事。年配の方にとっては体力的にキツくないのですか?という質問に対して
「船乗りとして海へ出ていた頃から夜に働くことが多かったんですよ。運搬などの作業は工場などが稼働していない夜間に行われることが多く、長い間船乗りとして働いていた私にとっては昼間よりむしろ夜間の方が体に慣れている。」との事でした。
そんな南さんにウミガメ監視員としての夜間の作業内容を伺うと、まず、19時頃に監視員達は監視小屋に集合するそうです。ポツリポツリと監視員が集合する中、19時半頃までは「あーでもないこーでもない」と前日起きた出来事や亀の様子などを雑談も交えながら話をすると言いいます。南さん曰くこの雑談もコミュニケーションをとる上で大切な時間と話してくれました。作業開始の19時半になると、監視員たちは門の開閉を行い、大浜海岸を訪れている人々を浜から引き上げさせ、ウミガメが上陸する準備を整えます。また、大浜海岸周辺の舗装された道路では一般車両の侵入を防ぐためにバリケードを設置します。車のライトがウミガメの産卵を妨げるため、毎年5月20日から8月20日までの期間、ウミガメの上陸と産卵を保護する目的で一般車両の侵入が制限されています。しかし、中にはそのことを知らない人がいることもあるため、監視員が見かけ次第、道を迂回するように説明を行うそうです。
また最近では、技術の進歩により、誰もがスマートフォンで夜でも気軽に撮影できるようになりました。しかし、若い人たちが知らぬ間に浜に入り、フラッシュを使用して写真を撮ることがあり、ウミガメはこれを特に嫌うため、使用の制限をお願いしているとのことです。
1箇所で説明を行っていると別の箇所で同じ様な事が起きたりと、1人では到底対応するのが難しいとの事で、チームで連携を取りながら毎年作業を行っていると言います。
ただ、監視員のメンバーは毎年同じ人が安定的にきてもらえる訳ではないので、仕事内容を教えるのも一苦労だと言います。特にコロナ禍以降はウミガメの上陸、産卵の見学が一時中断状態なので仕事を教えるのも口頭だけの説明になってしまい、なかなか実践的に教えることができないとの事。大浜や周辺の道路の見回りが終わると、交代制でウミガメ上陸監視が始まるそうです
長年働いているからこそ見えてくる未来図。昔とは違う今ある環境をどう未来に繋げていくか。試行錯誤を積み重ねながら少しでも前進し続ける。
ウミガメの監視業務では、コロナ禍以降新しい試みを行っているそうです。これまでは、ウミガメの上陸を発見するために大浜海岸に降りて砂浜の上を歩いて散策していたそうですが、ウミガメの上陸に関して人間の存在が多少なりとも影響しているかもしれないという事から、現在では砂浜には降りず道の上からナイトスコープを使用し監視を行っているとの事でした。ウミガメの産卵見学が一時中断されているということもあり、見逃すことがあったとしてもこのタイミングでしか出来ない事もあり、新しいチャレンジという事で今回の方法を取り入れているとの事でした。また、ライトに関しても普通使われるようなライトではなく赤く光るライトを使用しているのだとか。亀目線からすると赤い光というのは見えにくいらしく、亀に対する細かい配慮がなされてました。
ウミガメ監視員として15年間働いている南さんに監視員をされて大変だったことや心配事を伺いました。南さんが挙げた心配事は、世代交代の難しさです。近年、ウミガメ監視員として新しく一緒に仕事をしてくれる人はいるのだが、1、2年ほどでやめてしまう人が多く、せっかく仕事を教え、これからも頑張って欲しいと思っても、続けてくれる人が少ないと言います。そこに加え若い世代の人たちの応募も少ないと言います。南さんの言う若い世代というのは60代。仕事を定年してゆっくり過ごす時間もいいが、仲間と共に喜びを共有できるというのは、またひとつ違った日常が見れるという事で興味がある人は話を聞きにきて欲しいとの事でした。一昔前は、美波町の人たちが監視員を行う事が多く、色々なコミュニケーションもそこで生まれたと言います。さらに生まれ育った町のシンボル的な存在のウミガメを守っていくという気持ちもあったそうです。最近は池田の方から来る方もいれば、少し離れた場所からわざわざ来てくださる方もいる様でした。
愛くるしいウミガメならではの出来事とは!そんな所にウミガメが、、!?
長い間、ウミガメ監視員をされていると様々な予測もしない出来事が起こることがあると思います。南さんは15年間という長い時間海とウミガメに接して来られたとの事ですが印象的なでき事はありますか??という質問に対しては、
予測不可能な出来事はやはり、台風などで大荒れした時の様な普段とは違う環境になった時に起きることが多いそうです。波が荒れた翌日、いつも通り砂浜をウミガメが上陸していないか監視していたところ、ウミガメが岩と岩の間にピッタリ挟まってしまっている時があったそうです。当時、南さんを含む監視員全員が大慌てでウミガメを岩の間から救出し海へ戻したという事件が起きたそうです。「おそらく荒れた海の中を泳いでるうちに高波に乗ってしまい波が引いた時に間に挟まってしまったのだろう」との事でした。また別の日には散策中に「ドスンッ」と言う大きめの音がし、急いで現場に急行してみるとウミガメが砂浜の上でひっくり返っていたそうです。南さん曰く近くにある排水溝を上まで登っていき、行き場所がなくなり別のルートを進もうとし足を滑らせて落下してしまったのではないかと当時の仲間と話をしてたそうです。そのウミガメはびっくりした様子で急いで海へ引き返えしていったそうです。翌日、面白い事にそのウミガメは何事もなかったように同じ場所に上陸し、産卵して再び海へ戻って行ったそうです。どうして同じウミガメが来たとわかったんですか?という問いに関しては
「フジツボの付き方だったり、甲羅の亀裂、表情なんかをみると大体は判断できる」
との事でした。これも長年ウミガメ監視員として働いているから成せる技なんだろうなと感じました。
長年続けても変わらないやりがいと、ウミガメや関わっている人たちとの喜びの共有。ウミガメ監視員をする喜び。
先ほどお聞きした心配事とは対照的にウミガメ監視員をしての喜びについて伺いました。南さんは、パトロールをしていてウミガメを発見した時の高揚感は昔も今も変わらないと言います。昔に比べ上陸数が減ってしまった現在ですが、ウミガメは人々の心を今もまだしっかりと掴んでいるのだなと感じました。
そして、ウミガメが産卵して見学に来てくれる人の喜んでいる顔をみるのが一番の楽しみ、嬉しい事だと言います。「現在は様々な事業があり産卵見学を中断していますが、来年ぐらいから再開してくれれば嬉しいな。」と話してくれました。
そのためにはウミガメの上陸も増えて欲しい。だから今は出来ることをやるだけです。っと
心強い意見を聞かせていただきました。
リニューアル中のカレッタですが、見えないところで様々な試行錯誤が行われており誰もがウミガメ達の為に出来ること、より良い環境になる為にと行動している姿をみる事ができました。生まれ変わるカレッタ、たくさんの人達の思いが繋がる素敵な施設になりますように!!