ウミガメの快適性を追求するため、様々な角度からの意見をまとめ、見た目だけでは分からない、きめ細かな設計のお話し
人が考えるウミガメにとっての快適さとは?ウミガメが感じる快適さとは?カレッタ関係者から出る濃密な情報から生み出される新しいカレッタのカタチ
東京都台東区に事務所を構える加藤隼輝さん(35)。一級建築士の資格を持つ加藤さんは、場所を問わず全国のプロジェクトの設計を行っており、
今回のプロジェクトも屋内外の設計に関わっていて「基本調査」「基本計画」「基本設計」「実施設計」などがあり、様々な設計がある中で内装の設計や展示物、照明関係などは別業者が入ったり、それぞれの分野に分かれプロジェクトを進めているそうです。
具体的には、美波町やカレッタ関係者と打ち合わせをし、要望などをまとめて改修工事の具体的な計画を提案して図面化する業務内容でした。
ウミガメの魅力を引き出す為にウミガメ視点で設計を考える。環境を整える中で行き着いた屋外プールのデザイン。
設計と言っても、先に上げたような様々な業務に分かれ、それぞれ専門的な分野の情報を集めながら色々な角度から設計を進めていくと話す加藤さん。たくさんの関係者がいる中、多種多様な意見がぶつかり合うのでは?という質問に対して、「お互い見えている部分が違うので、問題解決には一つ一つ親身になって、話し合う必要がある。お金があればどこまでもできるが、限られた予算、限られた敷地内でお互い適切な落とし所を見つけながら話を進めていく事が大切。」と話していました。
設計の業務内容の範囲は多岐に渡るそうで、中でも特に意識を集中させたのが新しく新設されるウミガメの屋外プールだそうです。屋外展示の観覧体験ができるプールということで、大浜海岸を眺めながらウミガメの観覧ができるのが大きなポイントであり、この地特有のモノになるのではないかと話す加藤さん。リニューアル後は2階に出入り口を新設し、大浜海岸を一望できる高さから1階へ続くゆっくりとしたスロープでプールをぐるりと一周し、ウミガメが悠々と泳ぐ姿と大浜海岸の海水面が一体に見られる高さの道へと続くそうで、海面と海中、様々な角度から海とウミガメを見ることができる魅力的な構造になっているそうです。
また、旧屋外プールとは全体的な構造が違っていて、設置場所も変更されました。それに伴い、水量や面積も大幅に変わっているように見えますが、実際には大きな変更はないそうです。というのも、これまでは仕切りなく広々とした空間を悠々と泳げた方が、ウミガメにとっては快適だろうと考えられていましたが、実はウミガメも人間同様に性格が様々で、個々に合わせた区画でないと快適とは感じないという事がわかったからだそうです。
また、博物館の外装にも注意すべき点が。外の光を反射させない素材かつ落ち着いた配色、夜間に明かりを灯さない、などの条件のもと設計を進めなければならなかったそうです。なぜかというと、アカウミガメの産卵場所として国の天然記念物に指定されている大浜海岸の目の前に建つ博物館には、産卵期のウミガメが上陸しやすい環境を確保するためのデザイン建築設計が必要だったからです。
加藤さん曰く、従来の設計業務では経験したことのない、”人間目線ではなくウミガメ目線の施設”を設計するために苦労した部分も多かった反面、新しいことの連続で貴重な経験ができたそうです。
さらに、プールの設計で気を使った点があるそうです。それは、飼育管理のし易さ、掃除のし易さといった一般の来館者には分からないような箇所で、様々な懸念事項を一つずつ話し合いながら、問題解決をしていかなければなりませんでした。
「やはり、カレッタの学芸員さんや飼育員さんの知識は豊富で、設計側が考える事とウミガメの快適さを求める飼育側の考える事に違いがあったので、カレッタの関係者から意見をよく聞いて設計を進めていった。そして、特に今回はウミガメをより広がりのある環境で飼育し、海とプールが一体的に見て貰えるように意識した。また、ウミガメの施設なので人の快適さとウミガメの快適さのバランスをどうみるかが大切。主役はあくまでウミガメ。例を出すなら、雨に関して人間は傘を刺せばクリアできるので屋外の屋根は設計せずにウミガメの環境を崩さないように工夫してある。
ウミガメにとって快適な環境は、人が見てウミガメが快適そうだなって思う箇所と一致してない部分がある。僕らが提案する内容が必ずしもウミガメに取ってベストではないという発見が、カレッタの方々と打ち合わせを行っていく中であった。」
と話す加藤さん。
ウミガメに関して様々な生きた情報を得ることで変化していった屋外プールの在り方
新設されるプールは、現存するプールと場所も形状も変化し施工される予定です。加藤さんに、最初からこの様な形状の設計をしていたのか質問したところ、「最初に設計したものからは結構変化していて、ウミガメの快適性、飼育や掃除のし易さなど、カレッタ関係者の方々と何度も話し合いを行い問題を解決していったら現状の設計に落ち着いた。」とのことでした。
カレッタ関係者のウミガメに対する情熱や、ウミガメ主体の快適性、プールの環境や水の循環設備や水温調整など様々な情報を整理し現在の形に行き着いたそうです。実際に、私たちが感じている「設計」というイメージからは考えられないぐらい多くの仕事が含まれており、見えないところで様々な話し合いが行われている様です。そこにはお互いの感じる「海との関わり」や「ウミガメの在り方」など両者の熱い想いが込められているようです。
今回、様々な話し合いが行われる中、コロナ禍と言うこともありなかなか美波町に足を運ぶ事ができなかった加藤さんですが、そのような溝を埋めるためにコミュニケーションの面でも工夫した事があると言います。それは2Dの紙の図面ではなく3Dの図面を作るという事でした。2Dの図面では、制作者側は頭の中にイメージが出来ており理解できますが、相手に理解してもらおうとした時に難しい事があり、3Dの図面を作って見せると相手側にも伝わりやすく今回は本当に役立ったと言います。
美波町に来て感じた事とリニューアルするカレッタの今後
限られた期間の中で、いかに効率的に現地調査を行なうかが大変だったと言う加藤さん。実際、美波町に来てみてイメージと違った事柄はありましたかという質問に対しては、「漁港のある漁師町という話は聞いていたので、イメージ通りの町で、すっと入り込めた。驚いたのはサテライトオフィスの数が多くなっていることで全国的にみてもトップクラスの数値。移住や門前町のプロジェクトなど町を盛り上げるさまざまなプロジェクトがあり町全体が賑わい盛り上がっている印象を受けた。その過程にカレッタのリニューアルも加わり町が明るく元気になれば嬉しい。更にカレッタがきっかけでウミガメが大浜海岸にたくさん戻ってきてくれて上陸数も増えれば嬉しい。全体が盛り上がり明るくなる未来を想像しておられる様でした。カレッタリニューアルで町全体も明るくなるように期待したいですね!