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先進的な取り組みに新しい価値を見出し、今の時代背景と共に答えを導き出す

馬渕 富夫

様々な施設の企画設計を行ってきた馬渕さん。美波町でしか生まれないカレッタの新しい価値を生み出す。

東京都渋谷区に本社を置くUDS株式会社の馬渕富夫さん

今回は、どのような経緯で美波町にある日和佐うみがめ博物館カレッタと関わるようになったのか、そしてどのような関わり方をするのかお話を聞いてきました。

2016年にUDS株式会社に入社した馬渕さんは、町づくりに関わるような劇場、図書館などの文化施設や医療系大学キャンパスなどの教育施設、銀座開発など商業施設の国内外プロジェクトの事業企画、設計管理を行ってきたようです。現在は主に「水族館」や「駅」などの新しいあり方を考える施設開発を屋内外問わず行っているとのことでした。

今回の「日和佐うみがめ博物館カレッタのリニューアルに向けた改修工事」で馬渕さんは、カレッタの改修全体の企画やプロセスのデザインを行っているそうです。

プロジェクトを進めていく上で見えてきたモノ。この地でしか成り立たない価値

馬渕さんによると、今回のプロジェクトは少し特殊で、建物や屋内展示などの分野ごとに複数の企業が関わって一つのプロジェクトを進めていくというカタチを取っているので、コミュニケーションの面からしても大変なうえに、既存の建物をゼロにしてイチから作り直すのではなく、今あるモノを活かしながらリノベーションを行っていくという方法を取っているので、とても先進的なプロジェクトなのだそうです。

中でも、今回のプロジェクトには2つのポイントがあると言います。

 

『既存の施設が将来に向かってどうやって進んでいくか。』

『複数の関係者がいる中で、必要なスキルをどう共有していくか。』

 

この2つの軸で見た時のチャレンジがあるので、「どういったものをゴールにしていくのか?」ということを長い時間をかけて考えてきたと言います。コミュニケーションエラーがない様に、関係企業で数々の合同会議を行い、意見のすり合わせに時間を使ったそうです。その過程で注意したことは、美波町も含めた課題設定、問題解決へ向けたゴールの見極めを間違えないということ。いくら会議をたくさん行っても、根本的な道筋が間違っていたら全く別の目的地にたどり着いてしまうからだそうです。課題が複雑だったので、その見極めが大変だったと話していました。

 

時系列で色々変わってきていて、スタートとゴールが変化している。方向性は見えてはきているし、これからも変わり続けていくだろう。そのプロセスが大切だと言います。壊してゼロから作るのではなく、今あるプロセスを大事にしながらリノベーションしていく、他の地方もそういったやり方になっていくのかもしれない。そこには時代背景や今の世の中の風潮も関係していると言います。

人口減少が懸念される今の日本において現場でなんでもかんでも新しく建てていく時代ではなくってきているし、昔と違い財源も尽きてきている。そこにはSDGsも関係してきていて、新しいモノを生み出すのではなくて今あるモノをどう使うか?そういった時代背景などを考えても今回の改修工事は規模は大きくないが先進的な取り組みだとおっしゃいます。

今後、同じような課題を持ってる他の施設も同じ様な解決方法を導き出していくかもしれない。

「変わらない軸はあったにせよ、行ったり来たりして課題とゴールが明確に見えてきてそこに向かうプロセスも見えてきた。このプロセスに価値があるので、そこをどうプロモーションしていくかが大切。時代の変化の転換点にあり非常に面白いプロジェクト。だけど、難易度は高い。

建物だけをどうすればいいかを考えるのではなく、カレッタという存在が、美波町でどういった意味を持つのか、お客さんにどういった体験を提供して満足してもらうのか。ハードとソフトの色んな角度から物事を考えなくてはならない。

来館者(人)とウミガメにとってベストな関係を作ることがこのプロジェクトの面白さであり難しさだと言います。ウミガメにとっての環境をどう作っていくか、その環境を来館者がどう観察するのか。人間目線に寄りすぎてしまうと生き物がただの見せ物になってしまいます。しかし、保護にバランスが偏ってしまうと来館者の興味は薄れてしまいます。二つの目線がどちらか一方に偏よってしまうと、美波町が目指してるものにはならない。両方のバランスが必要で、ウミガメと町の歴史や未来に興味を持ってもらい、お互いが共生していく関係を作っていかないといけない」と話す馬渕さん。

これまでの歴史から学ぶカレッタの役割、時代背景と共に生まれる新しい価値観を共有する

今と昔ではカレッタの意味合いが変わってきていると言います。昔はウミガメの情報を保存し展示し後世に伝える役割だったものが、今はSDGsの背景もあり、お互いの生態環境を意識しながら学びの場になるような役割が必要になってきた。昔は、ほっておいてもウミガメが来る環境だったのに対しての情報を展示する博物館だったのが、ウミガメの上陸数が減り来なくなる危険性が生まれてきた。あの施設の役割がこれまで通りの受け身のカタチでは駄目で新しい関係性を作っていく必要性が出てきた。逆に今度は人間側がウミガメにできること、関われることを考え学べるリハビリテーション的な役割の場所になって欲しい。ここ美波町でしかできないことの価値を博物館として提供することが必要だと言います。

屋外と屋内の展示の意味。そして大浜海岸のある環境でできること

今回のカレッタ改修工事において展示方法は大きく2つ、屋内と屋外があリます。

既存の施設では、屋内でどうウミガメの生態情報や歴史を伝えるか。これまで記録した膨大な量の情報を整理しどう来館者に伝えるかでした。そして、屋外のプール。ウミガメを目の前で観察でき実物を目の前で体感してもらう。改修工事後はそれぞれが別々のものになっては意味がなく、一連のストーリーを連続したものにすることが大切だと言います。

目の前にあるウミガメが実際にいた浜を再現し、それがウミガメにとっても良い環境であり、来館者にとってもダイレクトに伝わる形にする。その今までにない新しさがこの施設の魅力だとおっしゃいます。目の前にあるロケーション「海」と施設内の意義が一致していてしかも従来と違って人間目線が強くなり過ぎないデザイン。本来ならもっと屋外にあるべきものがなかったので、ようやく本来の形に近づいた。屋外にゾーンができたことによって屋内の施設と目の前の海との可能性が広がりエリア全体が海と一体化し、共生する時代にとっては非常に魅力的な空間になる。そして、今までにあった歴史を未来に向けてどうプロセスをデザインしていくかも大切。別の町で同じ施設を計画しても、これほどの魅力や意味は見いだせない、と楽しそうに話す馬渕さん。

リニューアルし、新しくなったカレッタを見据えて

美波町の大浜海岸でしかできないこと。来られた方がここでしかできない体験ができる場所。そして、体験して学びになり人々に伝わっていけば。そしてカレッタが海側まで人を導くことのできる町の拠点になればいいなと話す馬渕さん。

これまでの歴史を噛み締めながら新しいスタイルに変化するカレッタ。時代の流れと共に美波町に新しい風を呼んでくれる建物になるのが待ち遠しいですね!

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